忍者ブログ
アニメの感想。 今は『バディ・コンプレックス』一筋。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


「マーカスってさぁ。どんな奴だったの?」

今だから訊くんだけどさ。

と前置きした青葉の問いかけに、ディオは束の間、隣に立つ青葉を凝視した。

ルクシオンネクストとブラディオンネクストを見上げるキャットウォーク。
2機はアラスカでの戦闘後は出撃することもなく、整備班によって細部まできっちりと整備、調整されて、元はルクシオンとブラディオンの収容されていた場所に佇立している。ロールアウトしたばかりの機体の装甲の薄い煌きが、威容を際立たせていた。
ブラディオンの少し奥まったところには、鹵獲した機体として、ヒナのカルラが収容されている。
ゾギリアの最新型のフレームには整備長ドン・ナッハー以下整備班が興味津々で、カップリング・システムはエルヴィラとまゆかが掛かりきりで解析している。格納庫で今一番の人気者(アイドル)だ。

虚を突かれた――というか、なんというか。
青葉の口から、マーカスの名前が出ることがあるとは思わなかった。

青葉の話と状況を整理すれば、青葉がルクシオンのコックピットに現れたのはマーカスが死んだ直後になるようだ。マーカスと青葉は面識のありようがない。
だが、青葉がシグナスに乗ってもうそれなりの時間が経つし、リーやヤールたちパイロット仲間から、青葉がマーカスの名を聞いたとしてもおかしくはない。
青葉の特異体質についてエルヴィラが説明した時にも、名前が出ていた。

むしろ今日まで訊かなかったのは、青葉なりの気遣いだったのかもしれない。

そうだな、とディオは呟いた。
「悪い奴じゃなかった」

マーカス・ヘンドリクソン。
年は四つ上。階級は同じ少尉だったが、戦死したことにより2階級特進して、墓碑には大尉と刻まれた。
レイクルイーズのカップラー養成機関から、マッチング率の高さと安定を認められて、カップリング機の実戦投入実験艦として建造されたシグナスに、共に配属された。

穏やかな青年だった。
年上らしくディオのフォローに回ってくれることも多く、どちらかといえば、青葉とは逆の関係性だったように思う。
ディオと同じように前線からの志願者で――フロムは士官学校からの抜擢だ――同じように、家族を戦火で失ったと、言っていた。

青葉のようにはっきりと記憶を見たことがあるわけではない。
だが、彼の心に深く刻まれた同じ悲しみや、力及ばなかった悔しさを、感じることはあった。
それがディオとマーカスを同調させ、高いマッチング率を導いたのかもしれない。

親しかったか、と問われれば、ディオ自身答えを持たない。

エルヴィラのいうとおり数十回に及ぶカップリング実験をし、思考、経験を共有した。同僚として通常機での訓練やフィジカルトレーニングも共にしたし、訓練課程が同時間帯になることが多い都合上、食事も、シグナスでは一番共にした相手だった。マーカスも口数が多いほうではなかったが、会話も普通に交わしたと思う。
だが、休暇の時間を共に過ごしたことはなかった。

下らない言い合いをしたことも。
ましてや殴り合いの喧嘩をしたことも。

――ディオ! 落ち着いて聞いて。マーカスが……!

エルヴィラから通信が入った時には、ブラディオンのモニタには、青と白のパイロットスーツが破壊されたドックの瓦礫の下敷きになり、彼の体から溢れる鮮血に浸されていく様子が映し出されていた。

ほんの一瞬の誤差。
リー、ヤールに次いでロッカールームを飛び出したのは、ディオだった。
譲り合ったというわけではない。本当にたまたま、ディオのほうがタイミングが早かっただけだ。

マーカスが先に駆け出していれば、あるいは彼は難を逃れたかもしれない。

おまえのせいじゃねえよ、というヤールの慰めを聞くまでもなかった。
すべてのことに自分になんらかの責があると気負えるほど、ディオも戦場を経験していなくはなかった。

戦争なのだ。
運が悪かった。そうとしか言いようがないこともある。
ほんの少しの違いで、もしかしたらあそこで死んでいたのは、マーカスではなく自分だったかもしれない。

それでも、見知った相手が命のない肉塊になっている様は、素直に悲しかった。

「悪い奴じゃなかった……ね」

溜め息混じりの青葉の呟きが聞こえて、ディオは束の間の物思いから醒めた。
なんだ、と問うように視線をやれば、青葉は行儀悪くキャットウォークの手すりに両肘を掛けて、背を預けている。

「や、おまえ、俺が居なくなったら、なんていうんかなーと思ってさ?」

だらしない格好のまま視線だけ巡らせて寄こす青葉を、ディオは思わず、僅かに目を瞠ってもう一度凝視した。
青葉のじと目を数秒見返した後、一度瞬きをしてから、口を開いた。

「決まってるだろう」

唇の両端が吊り上がるのが、自分でも分かる。
に、っと笑ってディオは言った。

「馬鹿だった、と言うに決まってる。それも、救いようのない、な」

ずる、と青葉がずり落ちるのを目の端で見て、ディオは踵を返した。
ひっでぇー、という情けない声が追ってくるが、知ったことではない。
その口許には、柔らかな微笑みが浮かんでいたが、ディオ自身には覚えのないことだった。


***


「素直じゃねぇの……」
ずり落ちかけた態勢のまま、肘でフェンスにぶら下がって天井を仰ぎ、青葉はぼやいた。
だが、立ち去るディオの口許に、かすかな柔らかな笑みが浮かんでいたのは、見間違いではないだろう。

「……」
天井を仰いだまま、ふー、と長い吐息をひとつ。

もっと笑えばいいのに、と思う。

ハワイでの半舷休暇の時、妹のフィオナと交わし合っていた笑顔。
普段の仏頂面が嘘のような、優しい、やわらかな微笑みだった。

あんな表情も出来るんだ、と思った。

男の自分から見たって整った容姿の持ち主なのだから、もっと笑えば、男女問わずディオに親しみを抱くだろう。

「……ぶっ、」

そこで青葉は盛大に噴き出した。
プロモーションビデオの時の、見事な作り笑顔を思い出したからだ。
いつもの不機嫌面からは想像も付かない爽やかな笑顔で、「レッツカップリング」とのたまった時には、青葉はあっけにとられたものだ。
あまりの見事な変わり身に、からかわずにはいられなかった。

ひとりで腹を抱えて、思い出し笑いというには派手にひとしきり笑った後、青葉は再びフェンスに肘でぶら下がった。

ルクシオンネクストが、逆さまに青葉を見返してくる。
正真正銘の、青葉の専用機。他の誰も乗ったことがない機体だ。

「悪い奴じゃなかった、か」

フロムのことを、軽い奴は好きじゃないと言い放ち、お節介も好きじゃないと青葉も突っぱねた。
そのディオの口から出たのだから「悪い奴じゃない」は「いいやつだった」の同義語、最上級の親愛を示した言葉だ。

それでも、青葉には確信がある。

立ち去るディオの口許にあった微笑。
あの笑顔を、マーカスは見たことがないだろう。

ヒナの記憶の奔流の中で見たディオは、必死で青葉を止めていた。
ブラディオンでルクシオンに体当たりをかましてまで、特異点に飛び込もうとする青葉を止めた。
青葉を死なせないためだけに。
もしかしたらディオにも無意識の行動だったかもしれない。

居なくなったらさびしがるから、とからかったらムキになって否定していたが、自惚れではなく、自分が居なくなったらディオはさびしいだろう。
死んだら――泣いてくれるだろう。

「……愛されてんじゃん、おれ」

逆さまの愛機に語り掛けるように呟いたその口許には、相棒が浮かべたのと同じ微笑みが浮かんでいた。


<了>





拍手[2回]

PR

Comment
Name
Title
Mail
URL
Comment
Pass   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
[114] [113] [111] [110] [109] [106] [103] [108] [105] [104] [102
«  Back :   HOME   : Next  »
カレンダー
08 2024/09 10
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30
プロフィール
HN:
おおぎまうと
HP:
性別:
非公開
自己紹介:
元(?)腐女子。
『腐った魂百まで』とか
『納豆はただの煮豆には戻れない』
とか言われながら帰ってきたふやけた納豆。

金髪碧眼美人スキーの属性健在。
何故かツン萌え属性も加わったようで。


只今『バディ・コンプレックス』ひとり祭り開催中。
ディオに恋する元(?)腐女子w
ディオしか見てない(笑) ときどきヒナ♪


バディコンに関しては腐ってません。今後も多分腐りません。


ツイッター
最新コメント
[04/27 Emilia]
[12/09 水希]
バーコード
ブログ内検索
カウンター
忍者ブログ [PR]