アニメの感想。
今は『バディ・コンプレックス』一筋。
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あるいはループの途中。
***
握り締めた拳の先で。
ディオの上半身が、ぐらりと傾いだ。
「……なんで……っ、どうして止めたッ!!」
怒声が、帰投した機体を迎えてざわついているハンガーの空気を凍らせた。
殴り付けたのと怒鳴ったのと、どちらが先だったのか、青葉自身にも分からなかった。
更に掴みかかろうとする青葉を羽交い締めにして誰かが止める。「よせ、青葉!!」と怒鳴るその声が誰なのかも分からない。
乗機ベリルコマンダーから降りてきたリーが青葉を捕まえ、ヤールも駆け寄って来ていた。
フロムだけは、ヘルメットを小脇に、のんびりと歩み寄ってくる。
周囲のそんな様子などは、完全に青葉の意識の外だった。
目の前が真っ赤になるほどの尋常でない憤りのなかで、ただ、ディオだけを見ていた。
怒りで沸騰しきった思考、視界の中で、ゆっくりとディオが顔を上げる。
ひた、と青葉に視線を据えた。
渾身の力で殴られて、頬を赤く腫らしているのに、驚くほどに静謐な澄んだ眸だった。
ブラディオンを見上げている時の眸(め)だ。
煮え滾った頭の片隅の、どこか冷めた部分で、青葉はそう思った。
愛機ブラディオンをひとり見上げる時に、ディオがそんな眸をするのを、青葉は知っていた。
何かを見据えて、揺るがない、青い眸。
切れた唇の端から一筋滴った血を手の甲でぐいと拭ってから、ディオは口を開いた。
「ルクシオンを失うわけにはいかない」
静かな、冷静な声が、僅かに冷えかけた青葉の怒りを再燃させた。
「ヒナが……っ、ヒナは、同じ繰り返しの時間に戻っていったんだ、分かってて、戻っていったんだぞ……!」
またね、青葉。
確かにヒナはそう言った。
それが、共有出来た最後の思考だった。
直後にヒナのヴァリアンサーは光の渦に飲み込まれ、カップリングは強制的に解除された。
無限の繰り返しの中に。
彼女はそれを理解していながら、突き進んでいった。
あの日の――2014年の青葉を守るために。
「彼女が、」
ひたと青葉に据えた視線を微塵も揺らさずに、ディオは言った。
「弓原雛が無事であることには、確証がある。お前が今ここに存在していることが、何よりの確たる証拠だ」
「……っ」
一瞬、青葉は言葉に詰まった。
そうだ。
ヒナとヒナのヴァリアンサーが無事にあの光の渦を抜けて2014年にたどり着いたからこそ、青葉は生きてここにいる。
青葉は唇を噛んだ。
「……、だからっ、て!」
強く噛み締め過ぎた唇が切れて、血を吹いた。
憤りと、悲しさと、やるせなさと。
ないまぜになって昂りきった感情が、声を震わせる。上手く言葉が紡げずに、不自然に跳ねる。
「ヒナを、ひとりで……っ、往かせていいわけ、ない……っ」
ずっと青葉を見ていたの。
逃亡の最中に、ヒナは微笑んでそう言った。
分かっていてヒナは往ったのだ。
2014年に行って青葉の命を救い、未来に送り……自分は更なる時空の捻じれに押し流されて、記憶を失うこと。
記憶を失ったまま成長し、青葉を知らずに、再び青葉と出会うこと。
すべて分かっていて、ヒナは。
「お前が一緒に行って、どうにかなったのか」
静かな――あくまでも抑制された怜悧なディオの声が、青葉を更に激昂させた。
「……こ、の野郎……っ!!」
「青葉!!」
「止せって!」
リーを振り切って飛びかかろうとする青葉を、ヤールも反対側の片腕を引き掴んで留める。
なおも暴れ続ける青葉を、凪いだ湖面のような眸で、ディオは凝視めていた。
「……言ったはずだ。おまえはシグナスを守ると」
一瞬の、瞑目。
睫を伏せたままで、ディオは静かに続けた。
「守ると誓った仲間を置いていくのか。おまえはそんな男じゃないだろう。……青葉」
呼ぶ声は、踵を返したディオの、背中から聞こえてきた。
青葉。
いつからだろう。
ディオが名前を呼んでくれるようになったのは。
抑制された硬質な声音で話すことが多いその声に、信頼と親愛の表れを示して、僅かな柔らかさが混じるようになったのは。
遠ざかっていく靴音を聞きながら、青葉は膝から崩れ落ちた。
その様子とディオの背中をちらりと見比べたフロムが、ヘルメットをひょいと肩口に担いで身をひるがえす。ディオの後を追って歩き出した。
「……ちッ、きしょうっ」
誰にともなく吐いた切れ切れの悪態は、掠れて、まるで嗚咽のようだった。
青葉の両腕を縛めていた二人の腕が緩んで、青葉は力なく床に握ったままの手を突いた。
頭上で顔を見合わせる、リーとヤールの困惑したような、呆れたような気配が伝わってくる。
僅かの間の後に、二人の気配が離れた。青葉をひとり残して、足音が去っていく。
今更ながらに、渾身の力を込めた拳が鈍く痛む。
殴った青葉の拳にも痛みを残すほどの重い一撃だったのに、ディオは避けなかった。
怒りの半分――否、ほとんどはディオにではなく、己に対するものだ。
己の不甲斐無さに対する怒り。
八つ当たりだと分かっただろうに――ディオは避けなかった。
鈍く痛む右手に、左手を重ねる。
分かっているのだ。
ディオに分かるように、青葉にだって分かっている。
ディオはただ、青葉を守ったのだということ。
「危険だ」と言ったディオの声が耳に残っている。
その切迫した響き、ブラディオンでルクシオンを弾いてまで、青葉を止めたディオの気持ち。
ぼたりと大粒の熱い雫が一粒落ちて、グローブに染みを作った。
だからといって。
どうすればいい。
多分、元の時代に帰ることは、もう出来ないだろう。
家族もいない、ヒナもいないこの時間で――どうやって、生きていけばいい。
誰を守って、何を目指して、生きていけばいい。
重ねて握り締めた拳に突っ伏して、青葉は泣いた。
声の無い慟哭は、戻ってきたハンガーの騒音に紛れて、潰えていった。
***
青葉側から。
この後、ディオとフロム。
***
握り締めた拳の先で。
ディオの上半身が、ぐらりと傾いだ。
「……なんで……っ、どうして止めたッ!!」
怒声が、帰投した機体を迎えてざわついているハンガーの空気を凍らせた。
殴り付けたのと怒鳴ったのと、どちらが先だったのか、青葉自身にも分からなかった。
更に掴みかかろうとする青葉を羽交い締めにして誰かが止める。「よせ、青葉!!」と怒鳴るその声が誰なのかも分からない。
乗機ベリルコマンダーから降りてきたリーが青葉を捕まえ、ヤールも駆け寄って来ていた。
フロムだけは、ヘルメットを小脇に、のんびりと歩み寄ってくる。
周囲のそんな様子などは、完全に青葉の意識の外だった。
目の前が真っ赤になるほどの尋常でない憤りのなかで、ただ、ディオだけを見ていた。
怒りで沸騰しきった思考、視界の中で、ゆっくりとディオが顔を上げる。
ひた、と青葉に視線を据えた。
渾身の力で殴られて、頬を赤く腫らしているのに、驚くほどに静謐な澄んだ眸だった。
ブラディオンを見上げている時の眸(め)だ。
煮え滾った頭の片隅の、どこか冷めた部分で、青葉はそう思った。
愛機ブラディオンをひとり見上げる時に、ディオがそんな眸をするのを、青葉は知っていた。
何かを見据えて、揺るがない、青い眸。
切れた唇の端から一筋滴った血を手の甲でぐいと拭ってから、ディオは口を開いた。
「ルクシオンを失うわけにはいかない」
静かな、冷静な声が、僅かに冷えかけた青葉の怒りを再燃させた。
「ヒナが……っ、ヒナは、同じ繰り返しの時間に戻っていったんだ、分かってて、戻っていったんだぞ……!」
またね、青葉。
確かにヒナはそう言った。
それが、共有出来た最後の思考だった。
直後にヒナのヴァリアンサーは光の渦に飲み込まれ、カップリングは強制的に解除された。
無限の繰り返しの中に。
彼女はそれを理解していながら、突き進んでいった。
あの日の――2014年の青葉を守るために。
「彼女が、」
ひたと青葉に据えた視線を微塵も揺らさずに、ディオは言った。
「弓原雛が無事であることには、確証がある。お前が今ここに存在していることが、何よりの確たる証拠だ」
「……っ」
一瞬、青葉は言葉に詰まった。
そうだ。
ヒナとヒナのヴァリアンサーが無事にあの光の渦を抜けて2014年にたどり着いたからこそ、青葉は生きてここにいる。
青葉は唇を噛んだ。
「……、だからっ、て!」
強く噛み締め過ぎた唇が切れて、血を吹いた。
憤りと、悲しさと、やるせなさと。
ないまぜになって昂りきった感情が、声を震わせる。上手く言葉が紡げずに、不自然に跳ねる。
「ヒナを、ひとりで……っ、往かせていいわけ、ない……っ」
ずっと青葉を見ていたの。
逃亡の最中に、ヒナは微笑んでそう言った。
分かっていてヒナは往ったのだ。
2014年に行って青葉の命を救い、未来に送り……自分は更なる時空の捻じれに押し流されて、記憶を失うこと。
記憶を失ったまま成長し、青葉を知らずに、再び青葉と出会うこと。
すべて分かっていて、ヒナは。
「お前が一緒に行って、どうにかなったのか」
静かな――あくまでも抑制された怜悧なディオの声が、青葉を更に激昂させた。
「……こ、の野郎……っ!!」
「青葉!!」
「止せって!」
リーを振り切って飛びかかろうとする青葉を、ヤールも反対側の片腕を引き掴んで留める。
なおも暴れ続ける青葉を、凪いだ湖面のような眸で、ディオは凝視めていた。
「……言ったはずだ。おまえはシグナスを守ると」
一瞬の、瞑目。
睫を伏せたままで、ディオは静かに続けた。
「守ると誓った仲間を置いていくのか。おまえはそんな男じゃないだろう。……青葉」
呼ぶ声は、踵を返したディオの、背中から聞こえてきた。
青葉。
いつからだろう。
ディオが名前を呼んでくれるようになったのは。
抑制された硬質な声音で話すことが多いその声に、信頼と親愛の表れを示して、僅かな柔らかさが混じるようになったのは。
遠ざかっていく靴音を聞きながら、青葉は膝から崩れ落ちた。
その様子とディオの背中をちらりと見比べたフロムが、ヘルメットをひょいと肩口に担いで身をひるがえす。ディオの後を追って歩き出した。
「……ちッ、きしょうっ」
誰にともなく吐いた切れ切れの悪態は、掠れて、まるで嗚咽のようだった。
青葉の両腕を縛めていた二人の腕が緩んで、青葉は力なく床に握ったままの手を突いた。
頭上で顔を見合わせる、リーとヤールの困惑したような、呆れたような気配が伝わってくる。
僅かの間の後に、二人の気配が離れた。青葉をひとり残して、足音が去っていく。
今更ながらに、渾身の力を込めた拳が鈍く痛む。
殴った青葉の拳にも痛みを残すほどの重い一撃だったのに、ディオは避けなかった。
怒りの半分――否、ほとんどはディオにではなく、己に対するものだ。
己の不甲斐無さに対する怒り。
八つ当たりだと分かっただろうに――ディオは避けなかった。
鈍く痛む右手に、左手を重ねる。
分かっているのだ。
ディオに分かるように、青葉にだって分かっている。
ディオはただ、青葉を守ったのだということ。
「危険だ」と言ったディオの声が耳に残っている。
その切迫した響き、ブラディオンでルクシオンを弾いてまで、青葉を止めたディオの気持ち。
ぼたりと大粒の熱い雫が一粒落ちて、グローブに染みを作った。
だからといって。
どうすればいい。
多分、元の時代に帰ることは、もう出来ないだろう。
家族もいない、ヒナもいないこの時間で――どうやって、生きていけばいい。
誰を守って、何を目指して、生きていけばいい。
重ねて握り締めた拳に突っ伏して、青葉は泣いた。
声の無い慟哭は、戻ってきたハンガーの騒音に紛れて、潰えていった。
***
青葉側から。
この後、ディオとフロム。
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HN:
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HP:
性別:
非公開
自己紹介:
元(?)腐女子。
『腐った魂百まで』とか
『納豆はただの煮豆には戻れない』
とか言われながら帰ってきたふやけた納豆。
金髪碧眼美人スキーの属性健在。
何故かツン萌え属性も加わったようで。
只今『バディ・コンプレックス』ひとり祭り開催中。
ディオに恋する元(?)腐女子w
ディオしか見てない(笑) ときどきヒナ♪
バディコンに関しては腐ってません。今後も多分腐りません。
『腐った魂百まで』とか
『納豆はただの煮豆には戻れない』
とか言われながら帰ってきたふやけた納豆。
金髪碧眼美人スキーの属性健在。
何故かツン萌え属性も加わったようで。
只今『バディ・コンプレックス』ひとり祭り開催中。
ディオに恋する元(?)腐女子w
ディオしか見てない(笑) ときどきヒナ♪
バディコンに関しては腐ってません。今後も多分腐りません。
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